
砂埃とクラクションのノイズ。乾燥したカトマンズの市街地を抜けると巨大な白い仏塔が現れる。線香のにおいが立ち込め、シャンシャンとテンポのよい鈴の音が聞こえてくる。
高さ約36メートル。その上部には、不気味だが嫌味のない大きな眼が描かれ、カラフルな旗越しに人々を見下ろしている。この眼は「智慧の目」と呼ばれている。これはブッダの眼を描いたものではなく「すべてを見通す」という機能を記号として置いている。
よく見ると眉間には渦巻きの印もある。第三の眼として語られることもあり、見えるものだけではない領域まで見通す洞察を示すのだという。
また、鼻のようにみえる「?」のような記号は、ネパールで使われる数字の「1」で、統合や調和を表しており、常に真理は1つであるという意味が記号化されたものだ。顔のイラストではなく、仏教哲学を視覚的に表現したものなのである。




ネパールという国の信仰は、隣国インドの影響もあってヒンドゥー教と仏教が複雑に混ざり合っており、その境目は極めて曖昧らしい。しかしここボダナートのある地域は、かつてチベットとネパールを結ぶ交易路の玄関口であったため、ヒンドゥー色が薄く、いまもチベット仏教の雰囲気が色濃く出ており、巡礼の中心地になっている。
塔から張り巡らされた無数のカラフルな旗は、インスタ映えのために設置されているわけではない。青、白、赤、緑、黄の五色は、空・風・火・水・地を表す。この旗にはお祈り(経文)が印刷されており、風が吹くたびにその祈りを風に乗せて拡散させるのだ。単なる装飾ではなく、物理的な風力を利用した全自動お祈りシステムとして機能している。情報の拡散という意味では、SNS登場よりもはるか昔から機能的に運用されていたのだ。
このように様々な祈りが1つとなったこの仏塔の周囲を、僧侶も、観光客も、野良犬も時計回りに歩く。右回りに巡ることで徳が積まれ、心が清められ、輪廻の苦しみから救われると信じられているからだ。



2025年11月に訪れた。気温は20度を少し超えるくらいで、インナーにシャツ、薄手のウインドブレーカーでちょうどいい。日が当たる場所では少し暑く、歩いているとシャツ一枚になりたくなる。
仏塔の周囲には土産物屋やカフェが並んでいる。仏具っぽいものや用途のよく分からないものが店先に積まれているが、値段は書いていない。交渉がめんどうなのでスルーした。
屋上に席のあるカフェに入ると、仏塔の姿と、その周りを歩き続ける人たちがよく見える。建物の向こうにはカトマンズ周辺の山がうっすら重なっている。
コーヒーは特別おいしいわけではない。それでも、しばらく席を立つ気にならない。 僧侶も、観光客も、犬も、同じ円を描くように動き続けている。ただそれを眺めている時間が、思ったより長くなってしまった。
- 所在地: ネパール、カトマンズ(ボウダ地区)
https://maps.app.goo.gl/hmAhtHYEmj9hSipQA - 分類: チベット仏教 仏塔(ユネスコ世界遺産)
- 高さ: 約36m
- 交通: タメル地区よりタクシーで20分ほど。
inDriveという配車アプリをつかうのがおすすめです。数百円でいけます。 - 入場料: 外国人400ルピー(2025年時点)
- 注意点:仏塔の上部に登ることができるが靴を脱ぐ必要があるので黒い靴下がおすすめ





