
4億年前にできた洞窟がある。マレーシア、バトゥ洞窟。マレーシアはイスラム教の国だが、この洞窟はインド国外でも有力なヒンドゥー教の聖地になっている。
私は、聖地など特別な場所は、古いほどロマンがつまっていてかっこいいと思っている。聖地、4億年。期待しないほうが難しい。
首都クアラルンプール中心部から配車アプリUberで30〜40分。晴れ。蒸し暑い。
最初に目に入るのはでかい金色の像だ。ヒンドゥー教の軍神ムルガン。42mと世界最大のムルガン像らしい。
その足元から、カラフルな階段が洞窟の入口へ向かって伸びている。



SNSでは、この階段がこの場所の顔になっている。4億年の聖地というより、カラフルな階段のほうが有名かもしれない。
ただ、調べてみるとこの階段は最初からこうだったわけではないらしい。2018年に寺院が観光客を増やそうとして階段を無許可で塗った。当局は国家遺産登録の抹消まで警告したが、結局そのまま残り、観光客は増えた。
4億年の洞窟、聖地に、ペンキを塗るのか。
そして、臭い。鳩の糞か、猿か、あるいはその両方か。猿も鳩もそこらじゅうにいて、人との距離が近い。

階段の手前の広場で写真を撮っていると、信者らしき男性に話しかけられた。「おれの歌を聞いてくれ」と言う。断る間もなく謎のテレビ電話が始まり、自撮りの画角に私も入れられる。2〜3分ほど何かを歌ったあと、「私のパッションをみんなに伝えたいんだ」と言って去っていった。
暑さと臭いと猿と、巨大な金色の神様と、映えるカラフルな階段と、見知らぬ人のパッション。まだ階段すら登っていない。
階段を登る。272段。
ヒンドゥー教徒は裸足で登っている。観光客はスニーカーで、スマホを構えている。水のケースを頭に3つのせて運んでいる人がいる。同じ階段を、違う理由で登っている。猿が手すりに座って、誰かからもらったのか盗んできたのか、りんごを食べている。



登りきると、洞窟の入口が開けている。テンプル・ケイブ。中に入ると、空気が変わる。想像していたより広い。これほど大きくくり抜かれた鍾乳洞は見たことがない。湿気が肌にまとわりつき、上からは水滴が落ちている。天井が高く、自然光が差し込む中に、ヒンドゥーの神々を祀る祠がある。


ここを聖地にしたくなる気持ちはわかる。この自然を前にしたら、なにか意味を与えたくなる。
4億年とは言うが、人間の話になると、急に最近になる。先住民が雨宿りに使い、中国人移民がコウモリの糞を肥料として掘っていたという。
聖地になったのは1890年代だ。インド系の商人が、洞窟の入口の形がムルガン神の聖なる槍に似ていると言い出した。きっかけはそれだけだ。

そこから42メートルの金色の像が建ち、2018年には階段がカラフルに塗られ、SNSで広まった。4億年の洞窟なのに、私が見ているものの大半はここ100年ちょっとの話だった。
階段はカラフルに塗らないほうがかっこいいと思っている。いまでもそう思う。でも、塗られなかったら私はここを知らなかっただろう。
■所在地:
マレーシア、セランゴール州ゴンバク地区(クアラルンプール中心部の北側)
■アクセス:
・電車、KL SentralからKTM Komuterで約30〜40分、終点Batu Caves駅下車。駅から入口まで徒歩5〜10分。
・配車アプリやタクシーでも行ける
■営業時間:
毎日おおむね6:00〜21:00(案内により開始時間に差があるため要確認)
■料金:
メインのTemple Caveは無料。一部施設(絵の展示?)は別料金。
■所要時間:
メインの洞窟だけなら1〜2時間ほど
■服装:
宗教施設のため肩と膝が隠れる服装で。祠では靴を脱ぐ場面あり
■注意点:
・猿が多い。食べ物やスマホは見せびらかさないほうがいい
・ハトも多い。苦手な人は要注意
・昼はかなり暑い。朝のほうが人も少なくて歩きやすい
・ヒンドゥー教の祭礼タイプーサム(Thaipusam)の時期はかなり混むが、迫力のあるお祭り。

