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天への祈り、地上の勝負。タイのロケット祭り、ブン・バンファイに行ってきた。【タイ】【奇祭】

ロケットが打ち上がった瞬間

雨乞いのために自家製の巨大ロケットを打ち上げる。そんな祭りがタイ東北部にあると聞いて、好奇心がわいた。

5月、タイの東の果てラオス国境にほど近いウボンラチャタニ空港に降り立つ。バンコクから飛行機で1時間半ほどだ。さらにここから会場のあるヤソートーン県まで、レンタカーで約2時間。タイ東北部、イサーン地方の田舎道を走る。車線という概念が薄く、どうも運転が荒い気がする。(バンコクからヤソートーンまで出ているバスもあるが9時間とかかかるし現地での足が不安だったので車を借りた)

このロケット祭り、ブン・バンファイとは「空へ打ち放す砲撃能力が充てんされた竹」を意味する。毎年5月、雨季の始まりに合わせて開かれる。タイ東北部やラオスなど、この地域に根付いた祭りで、中でもヤソートーンのものが最も規模が大きい。村人たちが手作りしたロケットを天に向けて撃ち、雨を呼ぶのだ。

祭りは3日間続く。初日は前夜祭、2日目がパレード、3日目がロケット打ち上げといった内容だ。

私は2日目のパレードから参加した。街のメインストリートへ向かう。ヤソートーンは小さな街だ。普段ならただの田舎町という雰囲気だろうが、この日は違う。 メインストリートに人が集まっている。地元の人がほとんどで、観光客は全体の1割程度だろう。

ヤソートーンのメインストリートを練り歩くパレードの風景
ヤソートーンのロケット祭りを彩るタイ伝統のダンスの様子

日差しが強く、めちゃくちゃ暑い。雨季直前の5月、気温は35度以上。

なんともいえぬタイっぽい音楽が流れ、人の歓声、象も練り歩いている。スピーカーの前を通ると耳をふさぎたくほどの音圧で、タイの田舎の伝統を全身で浴びているような感覚だ。

パレードが始まる。なめらかなダンス、山車のようなもの、イケメンと美女が駆り出されるミスコン的なイベント。メインストリートを練り歩く行列は、想像していたより華やかで、エネルギーに満ちている。

ヤソートーンのメインストリートを練り歩くパレードに駆り出されるイケメンと美女
ヤソートーンのロケット祭りを盛り上げる象

3日目。ロケット打ち上げの会場は、街から離れた空き地とも公園とも言えるような大きな広場だった。メインストリートからは歩くと30分ほどかかる。 会場に近づくと、轟音が響いている。

会場の周辺には出店が並んでいる。飲み物、軽食、よくわからない小物。祭りの定番だ。

ブン・バンファイのロケット発射直前を遠くから撮った写真
遠くからみても巨大で迫力のあるヤソートーンのロケット祭り
雨季を待っているカラカラに乾燥した地面

ロケットは思いのほか細くて、でかい。重さは100キロ以上。発射台に設置される様子は想像していたものより本格的だ。地域ごとのチームがあるようで、それぞれおそろいのTシャツでロケットを見守っている。

次のチームの準備が始まる。メンバーが発射台に登り、ロケットの角度を調整し、取り付けを確認する。真剣な表情で何度も確かめ、最後は祈る。一つ一つの動作に緊張感がある。

ヤソートーンのロケット祭りに向けて、ロケットを準備している
100キロ以上もある手作りロケットを運ぶ人たち
ヤソートーンのロケット祭りで打ち上げ準備をする人たち
ブン・バンファイの巨大な発射台に登り、ロケットの角度を慎重に調整するチームのメンバー
ブン・バンファイのロケット発射直前、微調整をする人たち。僧侶も真剣に参加している
ブン・バンファイのロケット発射台
ブン・バンファイのロケット発射直前、手を合わせて祈るチームメンバー

打ち上げの瞬間、ゴォーーーーと轟音が響き渡り、火薬のにおいと煙に包まれる。ロケットが空へ上がっていく。観客は首を上げ、どこまで飛ぶかを見守っている。飛び続ける。まだ飛んでいる。

どこまで飛んだかはわからないが、一段落すると歓声が上がる。拍手と、叫び声と、笑顔。チームのメンバーは抱き合い、飛び跳ねている。緊張感が一気にゆるむ。その後、滞空時間のアナウンスがあり、さらに歓喜の声が広がる。

ヤソートーンのロケット祭りの、今まさにロケットが発射した瞬間
ロケットの様子を心配そうに見つめる人たち
3分以上も飛び続け、目で追えなくなるロケット
ロケット打ち上げが成功して歓喜の群衆

滞空時間を競っているのだ。目で追えなくなるまで飛び、3分以上は飛び続けている。

15〜20分に1発くらいのペースで打ち上げられていく。その度に同じ緊張と、同じ歓喜が繰り返される。今回は失敗したロケットはなかったが、火事になったり、死人が出たというニュースも珍しくない。それでも毎年続けられている。

ちなみに、ロケット打ち上げに失敗すると泥水に飛び込む罰ゲームがあるらしい。実際には失敗していなくても、観客が勝手に飛び込んでぐちゃぐちゃになっている人たちもいた。

泥まみれになって楽しむ観客
ロケット祭りの恒例行事、泥の中でぐちゃぐちゃになって楽しむ地元の人たち

滞空時間を競い、記録を測る。スポーツみたいだが、この祭りにはちゃんと由来がある。

祭りの前日、街にあるロケット祭りの資料館のような施設に行った。そこには巨大なカエルとナーガ(蛇神)の像が置かれていた。ナルトの口寄せくらいのサイズ感で、かなりでかい。これがロケット祭りと関係しているらしい。

ロケット祭りの神話を象徴する、資料館に設置された巨大なヒキガエル王の像
ロケット祭りの神話を象徴する、資料館に設置された巨大なナーガの像

この祭りの背景には、ヒキガエル王(パヤー・カンカーク)と天空の神(パヤー・テーン)の神話がある。

かつて、人々は天空神を信仰していた。ところが地上のヒキガエル王が人気者になると、天空神のことを忘れてしまう。怒った天空神は雨を降らせることを拒み、地上を干ばつにおとしいれた。

ヒキガエル王はナーガや虫たちを率いて天界へ攻め込み、勝利を収める。敗れた天空神は「地上から合図を送れば、必ず雨を降らせる」と約束した。

その合図が、ナーガを模した巨大なロケットだ。ロケットは神との約束を呼び起こし、雨を呼ぶための天への通信手段として、毎年雨季の始まりに打ち上げられる。

これが建前だ。

会場を歩いていると、お金を握りしめた人たちがいる。なにやら紙幣を手渡している。滞空時間のアナウンスが流れると、ハイタッチをするかのように紙幣を手渡すのだ。

会場には「賭け禁止」という幕が掲げられている。

ロケット祭りの会場に掲げられている「賭け禁止」の幕

なるほど、だからあんなに歓喜していたのか。チームが抱き合い、飛び跳ねていた理由がわかった。神への祈りだけではない。チームの威信と、現金がかかっている。

暗い雰囲気は微塵もない。みんな酒を飲んで楽しんでいる。結果がどうであれ、次のロケットが上がればまた盛り上がる。信仰と賭けが、同じ空間に混ざり合っている。

轟音とともに白い煙の尾を引き、天界の神へ向かって高く打ち上がる巨大ロケット
ロケットの様子を真剣になって見ている観客
ロケット打ち上げが成功した直後、喜ぶおそろいTシャツの人たち

信仰なのか賭けなのか。儀式なのか競技なのか。その境界などないのだ。

祭りの翌日、静かな田舎町に戻っていた。爆音も、火薬の匂いも、歓声も消える。メインストリートを歩くと、後片付けの残骸があるくらいで、もう普通の田舎町だ。また来年まで、日常が続くのだろう。

結局、雨は降ったのか。天気予報を見ると、そろそろ雨季が始まると言っている。天空神との約束は、今年も守られたようだ。

ロケット祭り ブン・バンファイ 基本データ

■正式名称:ブン・バンファイ(Bun Bang Fai / Rocket Festival)
■開催時期:毎年5月の第3週目あたり(年によって変動するため要確認)
参考:タイ観光局https://www.thailandtravel.or.jp/bun-bang-fai-rocket-festival/
■開催地:タイ ヤソートーン県
・パレード会場:https://maps.app.goo.gl/LZqVH4FJqcMaisfY7
・ロケット打ち上げ会場:https://maps.app.goo.gl/kxSor59r5Uaqzxvy6
■アクセス:
・ウボンラチャタニ空港からレンタカーで約2時間
・バンコクからヤソートーン行きバス(約9時間)
■宿泊:私が利用したホテル https://maps.app.goo.gl/SyZgsA4SB7bnyVYh6
■入場料:無料
■注意点:
・猛暑(35度以上)なので日差し対策必須
・現地ではGrabなどの配車アプリが使えない可能性が高い。バイクタクシーは走っているので、ホテルやお店の人と交渉すればどうにかなる(気合いです)
・火薬のにおいが服につくので、汚れてもよい服装で

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