
正直、行くかどうか最後まで迷っていた。検索するとサジェストに「ハロン湾 がっかり」と出てくるせいだ。ハノイ市内からバスで片道3時間、往復で6時間。絶対に疲れるに決まっているし、疲れたうえに「がっかり」させられては割に合わない。
ただ、ハノイの街を歩いていると、やたらと「龍」のモチーフを目にする。聞けば、ハロン湾こそがその龍の本拠地なのだという。その設定には少し興味がある。
ハノイ市内だけで1日を潰せる自信もなかったため、結局、消去法のような形で前日の18時過ぎ、締切り直前にツアーに申し込んだ。せめてもの抵抗で、英語ツアーの倍近い値段の日本語ツアーを選んだ。異国で会う日本人の安心感たるや。私は疲れたくないのだ。たとえハロン湾にがっかりさせられても、疲れだけは残したくない。


朝8時、ハノイを出発。日本語が堪能なベトナム人ガイド、クエンさんの軽快なトークを聞きながらバスは田舎道を走っていく。「クエンは”権力”って意味ですが家では妻のほうが強くて完全に名前負けです」「疲れたらクエン酸をとってください」など、数々のベトナムユーモア。窓の外には、舗装が甘い道路と、ノーヘルで走るバイク、ぼんやりとした田園風景が流れていく。
バスを降りてクルーズ船に乗り換える。ちょっと進むと、岩みたいな島、島みたいな岩が押し寄せてくる。美しいというより、どこか不自然な圧迫感がある。



この「ハロン(Ha Long)」という名前は、「龍が降りる」という意味らしい。かつて他国からの侵略を受けたとき、天から龍が降りてきて大量の宝石や翡翠を吐き出して追い返したという。それらがこの無数の岩山となったというわけだ。そして、戦いが終わった後、龍はそのままこの場所に住み着いたそう。

たしかに、その話には妙な納得感がある。船から見ると、岩山が複雑に入り組んでいて先が見通せない。天然の迷路となっていてここを攻める難しさを感じさせる。実際に、せまいところでは他の船とぶつかって不安になるほどの衝撃がくる。
理屈っぽくいえば、ここはカルスト地形だ。5億年前は海底で、そこから2000万年でなんやかんやあって岩になった。ちなみに、この湾に浮かぶ奇岩のひとつはベトナムのお札にもなっている。国にとってはそれほどの場所なのだ。ツアーの途中、鍾乳洞を歩く。5億年と言われてもピンと来ない。あと人が多い。



で、ハロン湾は、がっかり観光地なのだろうか?
天気は曇り。海の色は緑がかった灰色で、インスタで見るようなエメラルドグリーンではない。人も多く、騒がしい。日帰りツアーは工程が詰まっており、海を眺めながらのんびりクルーズというわけではない。
がっかりかどうかは、なにを期待していたかによる。私は秘境や絶景を期待していたわけではないし、龍の伝説を信じて来たわけでもない。ただ、消極的な好奇心を満たしに来た。岩や自然はただそこにあるだけで、こちらにはなにもしてこない。人それぞれの解釈があるだけだ。ある人にとってはただの岩、ある人にとっては映える景色、ある人にとっては龍が吐き出した宝石なのだ。

帰り際、夕日を眺めていると、同じツアーに参加していたおじさんがワインを1杯ごちそうしてくれた。「若いうちにいろいろ行っておいたほうがいいよ。経験にはなるから」と言う。「なにかためになっていればいいんですけどね…」と答えた。
帰りのバスでは眠るつもりだったが、撮った写真を眺めていた。私にとってはなんだったのか。ためになったかどうかは、まだわからない。

■所在地:ベトナム北部、クアンニン省
https://maps.app.goo.gl/okTsvZsRYK2jS2re7
■アクセス:ハノイ市内からバスで約3〜4時間
■ツアー情報:日帰りツアーまたは1泊2日クルーズが一般的(私が参加したツアーです↓)
https://www.kkday.com/ja/product/39680
■料金目安:日帰り日本語ツアー 10000円程度(英語ツアーなら5000円程度)
■注意点:
・天候は運です。曇りでも水墨画っぽいと割り切る心が大切。
・鍾乳洞見学や展望台にいく場面があるので階段の上り下りあり(スニーカー推奨)