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神が降り、頬に刃物を刺す。プーケット・ベジタリアンフェスティバル【タイ】

※この記事には、身体に刃物などを貫通させる祭りの写真が含まれます。苦手な方はご注意ください。

頬に刃物を貫通させる祭りがある。タイのリゾートとして知られるプーケットで行われている「ベジタリアンフェスティバル」。調べてみると、頬に刀や金属の棒を刺した人たちが街を歩いている写真が出てくる。

これの何がベジタリアンなのだろうか。

毎年10月中旬頃(中国旧暦9月)にお祭りは行われる。バンコクからプーケットまでは飛行機で約1時間半。

プーケットといえばビーチリゾートのイメージが強いが、オールドタウンと呼ばれる古い街並みも残っている。古い建物を使った店やカフェが並び、こちらも観光地ではあるが、ビーチとはかなり雰囲気が違う。

ベジタリアンフェスティバルは中国系神社で行われ、オールドタウン周辺はその中心のひとつになる。祭りは9日間続き、中国系神社を中心にさまざまな儀式が行われる。

その中でも目立つのが「マーソン」と呼ばれる、神が降りたとされる人たちが街を練り歩くパレードだ。「マーソン」は直訳すると「神の馬」。神が人の身体を乗り物のように使う、という考え方らしい。

パレードは朝早く7時頃から始まり、通りにはすでに参加者たちが集まっている。白い服が正装で、これには身体と精神を清めるという意味が込められている。

すると、刃物を頬に突き刺した人たちが歩いてくる。彼らは小刻みに震え、目はどこかぼんやりと遠くの一点を見つめている。異様なことが起きているのが、ひと目見ただけでわかる。

なぜか、血が流れている人はほとんどいなかった。

神が降りた人たちは思っていたよりも多く、次から次へと流れていく。中には女性も子どももいる。針を刺している人もいれば、剣や傘や、ガソリンを補充するときのアレなどバリエーション豊富だ。

パレードでは爆竹もひっきりなしに鳴っている。破裂音が近くで響き、あたりには煙と火薬のにおいが残る。これは大きな音で悪いものを追い払い、神を迎える意味があるという。

沿道の人たちは、彼らが近づくと道をあけ、手を合わせる。マーソンは旗を持っていて、その旗で頭を撫でるようにしながら通っていく。この場では、彼らは特別な存在として迎えられている。見物する対象というより、手を合わせる対象だ。

これは何の信仰なのだろうか?

タイは仏教の国だが、この祭りは仏教とはかなり雰囲気が違う。調べてみると、中国から東南アジアへ移住してきた中国系住民の信仰にルーツがあって、道教や中国の民間信仰が混ざり合い、独自の形になっていったらしい。

この祭りで迎える中心的な存在が、「九皇大帝」と呼ばれる九柱の神で、マーソンは神々を身体に降ろす役割を担う。

では、身体に神を降ろしたとして、なぜ頬に刃物を刺すのだろうか?それは、身体を傷つけることで、他の人々に降りかかる災厄や不運を代わりに受ける、という考え方があるらしい。

翌日、現地の人の協力もあって、実際にパレードに参加することができた。

朝6時、指定された場所に行く。ふだんは祭りの道具を保管する倉庫としても使われていそうな集会場で、中央には祭壇がある。

お祈りや挨拶を一通り済ませて待っていると、突然、ドンドン、ジャラジャラと大きな鐘と太鼓の音が響き渡った。マーソンは椅子に座っている。

あまりの音の大きさに驚いて、何が起きたんだ?と思っていると、ドンドンジャラジャラとさらに音が大きくなる。

突然のことに何が起きたのかわからなかった

マーソンは、自らの内側で圧を高めるかのように頭を抱えながら足を激しく踏み鳴らし、もう自分では止められないといったような勢いで、ぶつかるように祭壇へ向かっていった。

少しの沈黙のあと、こちら側を向く。身体や首が小刻みに震えている。そして、旗を振り、「ワーハッハ!!」と叫んだ。

この人は頬に刃物を刺すタイプのマーソンではなかった。それでも、さっきまで普通に座っていた人が、目の前で明らかに別の状態になっていく。

突然のことに何が起きたのかわからなかった2

そのまま、パレードへ出た。

あとで刃物を刺したことのあるマーソンに聞いてみたところ、トランス状態に入っているあいだは痛みを感じず、その間の記憶もないという。

別のマーソンがトランス状態から戻るところも見た。大声を上げながら祭壇へ向かったあと、ふっと力を抜いて、そばにいた人に身体を預け、もう一人の人が身体をトントントンと3か所突く。すると、すん、と普通の人に戻った。

戻っているところ

で、なにがベジタリアンフェスなのか?

タイではこの時期、「キンジェー」と呼ばれる9日間の菜食の習慣がある。バンコクでも中華街を中心に行われていて、肉や酒を避け、身体と精神を清める。プーケットでも街の屋台はベジタリアン料理に変わり、人々は白い服を着る。

現地で聞いた話では、マーソンにとって菜食は、身体に他の魂を入れず、神を迎えやすいピュアな状態を保つための行為でもあるという。話を聞いたマーソンも、祭りの期間だけでなく、ずっとベジタリアンとして過ごしていると言っていた。

いろいろ変だったが、「ベジタリアンフェスティバル」という名前は意外とそのままだった。

おまけ
この時期のはタイにあるユニクロのディスプレイも白い服になるし、

タイにある大戸屋にもベジタリアンメニューが登場する

プーケット・ベジタリアンフェスティバル 基本データ

■開催地:
タイ・プーケット島。プーケット・オールドタウン周辺を中心に、ジュイ・トゥイ神社、カトゥ神社など島内各地の中国系神社で行われる。

■開催時期:
毎年、中国旧暦9月の9日間。西暦では9〜10月頃で年によって日付が変わる。2026年は10月10日〜18日。

■主な会場:
プーケット・オールドタウン周辺。ジュイ・トゥイ神社は中心的な神社のひとつで、オールドタウン中心部から徒歩10〜15分ほど。

■アクセス:
プーケット国際空港からオールドタウンまで車で約35分。空港バスなら約1時間。

■見学:
パレードは早朝から行われることが多い。神社によって日程や出発時間が異なるので、行く前にその年のスケジュールを確認したほうがいい。

■服装:
祭りに参加する人は白い服を着る。菜食、禁酒などとともに、身体と精神を清めるための習慣のひとつ。

■注意点:
・爆竹がかなり近くで鳴るし服も汚れるし火薬のにおいもつく
・人によってはショッキングな光景なので苦手な人は注意
・祭りを見るならオールドタウン周辺に泊まると早朝のパレードに行きやすい

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